さようなら梶谷
ベイスターズファームが「湘南シーレックス」と名乗るようになって3年ほど経った2003年頃から横須賀スタジアムに入り浸るようになった僕にとって、かつて湘南シーレックスのユニフォームを着てプレーしていた選手というのは、他の選手とは明らかに違う、ひときわ熱い、厚い、暑い、特別な思い入れがあります。
その湘南シーレックスのユニフォームに袖を通した経験のある現役選手の多くが、今年はプロ野球生活の岐路に立たされました。
良い出来事としては、ベテラン扱いされるようになった梶谷選手が首位打者を争うほどの大活躍を見せてくれたのが代表的で、その他には湘南シーレックス最後の年(2010年)に入団した国吉選手が自他ともに認める一軍の戦力として定着した、という事もありました。
ただ、全般的には厳しい出来事の方が多く、DeNAベイスターズの初代キャプテンでもあった石川雄洋選手が一軍に一度も呼ばれる事無く戦力外通告を受け、梶谷選手と同じくらい下積み時代が長かった田中健二朗選手が故障の影響で育成契約となってしまったりしました。
他球団に移籍したメンバーの中では、出世頭の筒香嘉智選手がアメリカで苦汁を舐め、日本ハムに移籍した黒羽根選手は戦力外通告を受けました。
湘南シーレックス最後の年である2010年に高卒ルーキーとして新加入した筒香選手や国吉選手の世代が最も若くて29歳ですから、おのずとプロ野球選手生活の岐路に立ちやすいわけでして、成り行き上仕方が有りませんが、なにかこう、一つの歴史に幕が降ろされたかのような、寂しい気持ちを禁じえません。
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本題の梶谷選手のFA移籍について。
プロ野球選手がFAで国内球団に移籍する場合、大雑把に大きく分けると2種類のケースが有ると考えています。
一つは、より良い環境を求めるケースです。元の所属球団では優勝が望めない、とか、評価が不当に低いと感じる場合に移籍するのです。
かつて三浦大輔さんがFAで阪神に移籍しようか迷ったのもそうでしょうし、内川聖一選手や村田修一選手が移籍した時もこのケースと言えるでしょう。
もう一つは、元の所属球団に残っても近いうちに自分の居場所を失う可能性が高いと見込まれるケースです。
ベイスターズで言えば金城さんがそうではないでしょうか。来季契約の下交渉でフロントから暗に戦力外を匂わせる言動をされ、このままでは選手生活が危ういと判断してのFA移籍でした。
昨年オフにソフトバンクからロッテに移籍した福田秀平選手も、今年の日本シリーズでのソフトバンクホークスの戦力の充実ぶりを見る限り、残っていては自分の立場が危ういと判断してのFA移籍と見るのが妥当に思われます。
では今回の梶谷選手のFA移籍がどちらなのかと言えば、僕は後者だと判断しています。
梶谷選手の守備位置が外野手であり、レフトに首位打者でキャプテンの佐野選手がいて、ライトにはオースティン選手がいます。ですから梶谷選手の居場所はセンターにしか無いのですが、身体のあちこちに故障を抱えている梶谷選手にはいささか負担の重いポジションでもあります。
その身体的に負担の重いセンターしか選択肢が無い現状に加えて、レギュラー争いのライバルに成長著しい期待の大砲細川選手が虎視眈々と控えていて、さらに神里選手や、捲土重来を期すかつてのレギュラー桑原選手もいれば、乙坂選手や関根選手だっていますし、身体能力に定評のある宮本秀明選手もいます。
「うかうかしていられない」と危機感を募らせる段階はとうに過ぎていて、もはや選手生命の余命が何年か指折り数えねばならない段階に差し掛かっていたというのが現状なのではないでしょうか。
そしてだからこそ、まだナンボか生きる道が残されていそうな巨人へのFA移籍を決断したのではないでしょうか。
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湘南シーレックス最後の年である2010年の頃と比べた今のベイスターズは、クライマックスシリーズに出場するのが当たり前とされるくらいまずまず強いチームになりましたし、お客さんの数も比べ物にならないくらい増えました。
当時は試合日にノープランで球場に行っても、ハマスタでもスカスタでもチケット売り場で秒でチケットを購入できてすぐに観客席へたどり着けたのに、今ではハマスタはもちろんスカスタですらチケットを買うのに行列に並ばなければならなくなりました。
ただ、当時と今とでほとんど変わらない癖みたいなものがあって、チームに十数年所属した功労者と呼べるレベルの選手の扱いと言いましょうか、花道の作り方が、相変わらず下手くそであるという事であります。
今年で言えば、石川雄洋選手の退団への流れは、まさにこの球団の悪い癖そのものでありましょう。
特に人望が厚い事で知られる石川選手がああいった形でチームを去ることになったのは、梶谷選手のFA移籍になんらかの影響を及ぼしたのは間違い有りません。
明日は我が身だと、ベイスターズの中堅選手の誰もが思ったのではないでしょうか。
ベイスターズは強くなったしお客さんも増えたし球場もキレイになったし練習場も広くなったし、課題が次々と克服されています。
だからこそ、今度こそは功労者の花道の作り方を改革改善しなければなりません。
もしも改善ができないならば、それがファン離れの蟻の一穴となりうるんだと、重い覚悟を持たなければなりません。
そして万が一石川雄洋選手が次の所属球団を得られなかったならば、必ず来春のオープン戦、それも梶谷選手のいる巨人を相手に横浜スタジアムで彼の引退試合を挙行して欲しいと、付け加えなければなりません。
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何を隠そう、彼こそが湘南シーレックス選手で初のベイスターズ監督なのであります(NPB全体では工藤さんと中嶋聡さんがいる)。
この新生ベイスターズの船出を快いものとするためにも、やれFA移籍で裏切っただのなんだのという恨みつらみを一切捨て、清々しい気持ちで来シーズンを迎えましょう!という感じで、締めくくりたいと思います。
いつの日か、コーチとして彼が帰ってくるのを待ちわびながら。
以上