プロ野球ファンとは何だろう
僕はベイスターズファンであるのと同時にプロ野球ファンでもありますので、日本シリーズともなれば試合開始30分前にはテレビの前で準備を始め、試合開始を今か今かと待ちわびるような暮らしを送っております。球場に行けないのが残念ですが、ひとまずテレビでじっくりと観戦をするのであります。
ですが、世の中的には日本シリーズにあまり強い関心を抱かないプロ野球ファンも少なくないらしく、対戦カードによってテレビの視聴率が大きく左右されるという話も見聞きします。日本シリーズとはプロ野球界における最大のイベントであり、高校野球で言えば決勝戦に位置するような戦いですから、せめてプロ野球ファンなら誰もがテレビやラジオで一球一打に注目する位であって欲しいというのが僕の考えです。対戦カードがどうなろうと、みんなで注目する位であって欲しいのですが、実に残念です。
では、なぜ対戦カードによって視聴率に差がでるのかといえば、それはひとえに、自分の贔屓するチームにしか関心がない人が多い、という事だと思います。プロ野球が好きというよりは、贔屓チームが好き、という事です。ベイスターズで言えば、クライマックスシリーズにも日本シリーズにも出れないから、シーズン最終戦が終わると翌春まで野球から離れてしまう状態です。
それはなかなか寂しい事です。他人に自分の考えを無理強いするのは良いことではないので、あくまで僕の希望とか願いという風に受け止めて欲しいのですが、願わくば、もっと視野を広く持って欲しいと考えています。
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なでしこジャパンの宮間さんは「ブームを文化にしたい」と仰りました。
なでしこジャパンが2011年のワールドカップで世界一になって日本中で大フィーバーとなり、国内リーグの観客数も一時的には増えたものの、やがて元の木阿弥になってしまった。だから今度こそはブームで終わらせずに、文化として定着させたい。そういう趣旨のご発言でした。
他人事とは思えませんでした。
プロ野球は今でこそ非常に多くのお客さんで賑わうようになりましたが、ほんの少し前までは観客席が閑散とするのが珍しくありませんでした。僕がベイスターズファンという意識を持ち始めた2002年から2003年くらいは横浜スタジアムが閑散としているのが当たり前で、内野指定で一つのシマに僕1人しかいない事もザラでした。
ですから今の盛況ぶりは喜ばしいのですが、これで浮かれていてはいけないのだ、とも思います。なでしこジャパンのブームとその後のタイムスパンは非常に短い周期で行ったり来たりを繰り返しましたが、対象が同じ日本人である以上、プロ野球も同じ道を歩む可能性は大いにあります。あっという間に横浜スタジアムがガラガラに戻ってしまう可能性も無きにしもあらずであります。
だからこそ、プロ野球ファンとは何かを、もっと具体的に見定める必要があるように思います。
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日本プロ野球の特殊性の一つが「応援」の文化にあるのではと思います。
ただ純粋に「応援」という単語から考えられるそれとは違って、歌ったりタオルを振ったり揃いのレプリカユニフォームを着たりするのが、日本プロ野球の「応援」の一類型であります。これこそが日本プロ野球の正しい応援のあり方だとするならば、レプリカユニフォームを着ない歌わないタオルを振らない僕などは応援していない人になってしまうわけですが、それはともかく、もっぱらプロ野球ファンの与党はこういった応援を嗜む人たちであります。
それはそれで、アリだと思います。球場の雰囲気を作ってくれるわけですし、レプリカユニフォームやタオルなどのグッズ類も購入してくれるのですから球団としても非常にありがたい存在に違いありません。
時々アメリカの球場と対比して「鳴り物を止めるべき」「静かに見るべき」という人がいますが、僕はアメリカと日本で文化が違うのは当然なのであって、無理にアメリカに習う必要など無く、こちらはこちらでファンの楽しめるようにやるべきだと考えています。
ただ、さはさりながら、僕が思うに、この人達は、「応援」の矛先が野球チームである必要性をどこまで持っているのでしょうか。楽しく応援できるのであれば何もベイスターズでなくてもいいだろうし、野球でなくても良さそうな気もします。
よく何かしらの日本代表の試合になると渋谷のスクランブル交差点で大はしゃぎする人達の映像がテレビで流されますが、ああいう性質があるのではと思います。野球であれサッカーであれラグビーであれ、競技が何かという問題ではなく、みんなと一緒にお祭り騒ぎをする事が主眼に置かれる人達です。別にサッカーの聖地でもなんでもない渋谷で大騒ぎになるのは、渋谷に行けばみんなと騒げるのが広く知れ渡ったからであって、これと同じように横浜スタジアムでみんなと騒げるのが広く知れ渡ったから、ビリでも横浜スタジアムの観客動員が伸び続けたのだと見ることが出来ます。
ソーシャルゲームのコマーシャルではありませんが、「仲間」と「共感」が重要な意味を持つのだと思います。
僕はこういったファンを「パーティーピーポー型」と定義付けたいと思います。
ですからプロ野球界は、こういう「パーティーピーポー型」のファンをいかにプロ野球界に繋ぎ止めていくかに気を配らなければなりません。
また、日本シリーズをさらに盛り上げるためには、「パーティーピーポー型」のファンを流れ込ませるための工夫をしなければなりません。
日本シリーズというのはセリーグの勝者とパリーグの勝者とが相まみえる戦いですから、セリーグ6球団のパーティーピーポー型ファンがヤクルトスワローズを応援し、パリーグ6球団のパーティーピーポー型ファンがソフトバンクホークスを応援する流れを作らなければなりません。
例えば横浜スタジアムで日本シリーズのパブリックビューイングを開催し、ベイスターズファンやその他セリーグファンを集めてみんなでヤクルトスワローズの応援をしてわいわい騒げるような環境つくりをする必要があるように思います。パリーグ側ももちろんです。
その点パリーグ側は少し連携感というか連帯感のようなものが素地として存在するかもしれません。2004年のプロ野球再編問題の時のパリーグの連帯感は相当なものがあったと思いますし、かつての虐げられてきた歴史から「負けじ魂」みたいなものを共有してきた感じが受け取れます。
課題としてはやはりセリーグでしょうか。セリーグファンの間に連帯感のようなものがあるようには到底思えませんので、ここはプロ野球界を上げて、もう少し熟成させる努力が必要なのではないかと思います。
日本シリーズの視聴率が対戦カードによって大きく違ってきてしまうというのは、まだまだプロ野球は文化として未成熟であると示す一端のように思われてなりません。そこに危機感を持ち、さらなる高みを目指す必要があると僕は指摘したいと思います。
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僕は先程「パーティーピーポー型」という風に書きました。こう書かれて気分を害する人がいるかもしれませんので書き加えますが、僕も若い頃は夜な夜なクラブに出入りするパーティーピーポーでありました。
若い頃は池袋に住んでいましたので、都心で朝まで遊んで朝5時前に出る山手線の始発で家に帰って少し仮眠をとって仕事に出かける、という生き方をしていたのです。行くのは新宿のコードとかリキッドルームとか六本木のイエローとか青山のマニアックラブとか恵比寿のみるくとか様々でしたけど、とにかく仕事より遊びが中心のパーティーピーポーでした。
そういう経験を振り返ってみれば、日本人のかなり多くの割合がパーティーピーポーなのではないかと思うようになりました。
何かブームが起きれば、ティラミスでもナタデココでもドーナッツでも行列をなしてでも手に入れ、ブームが過ぎれば見向きもしない。政治でもブームが起きればひとたび投票率が7割を上回るけれど、ブームがなければ5割を切ってしまうのが、それが日本人の国民性なんだろうと思います。
それを淡々と見つめ、プロ野球文化にどのように織り込んでいくべきかを考えなければならない、という事を言いたかったのであります。
自分としてはもうちょっと日本シリーズで大盛り上がりするような感じになって欲しいなという残念さもありますので、ひとつ提言めいた戯れ言として書き残しておく次第であります。
以上