岩村明憲を追いかけて
僕はヤクルトファンでもなければ岩村明憲さんのファンでもありませんでしたが、岩村明憲さんを一人の野球人として、心底尊敬したいと思います。
日米のトップリーグや侍ジャパンにおける華々しいキャリアがありながら、あえて給料が安くて環境の劣る独立リーグに身を置き、さらに監督や球団代表までおやりになるというのは並大抵の事ではありません。
きっと、もっと環境が整った、高い給料を貰える仕事のオファーも少なからずあったと思いますが、あえて茨の道を進む決断は、なかなか出来るものではありません。
ですから僕は、岩村明憲さんが今季限りで現役を退かれると発表されてから、福島ホープスの試合を3試合見に行きましたし、岩村明憲さんの出身地である宇和島にも足を運んできました。
たった1年、それも本当にごく僅かな範囲でしか足跡を辿れていませんが、こうしていろいろなものを見ながら、世間は、そしてプロ野球界は、岩村明憲さんのような人をもっと評価するべきではないかと、改めて感じ入りました。
■
引退試合となった9月10日の武蔵ヒートベアーズ戦は、3600人以上の観客が集まりました。
普段の独立リーグの試合にどれくらいのお客さんが集まるのか想像しにくいと思いますが、僕がこれまで見てきた合計9試合は300~1800人という範囲で、開幕戦やシーズン最終戦のような特別試合でなければ週末でも500人入るかどうかというのが相場です。
それがこの日に限っては3600人も集まったのですから、やはり注目されたという事です。
岩村さんは引退試合で1番DHとして出場して4打席立ち、2安打をマークしました。始めの2打席はタイミングが全く合わずに苦労している様子が見て取れましたが、感覚を取り戻した3打席目と4打席目は、さすが独立リーグでは格の違いを見せつけました。
特に最終打席で相対したピッチャーは今秋のNPBドラフトで指名される可能性があると噂される村田陽春選手でしたから、より価値の高いヒットであったと付け加えなければなりません。
■
四国アイランドリーグやBCリーグ、それに関西独立リーグと3つの団体が産声を上げたそもそもの理由は、社会人野球のチームに廃部が相次ぎ、野球文化の担い手が先細ってきた事に端を発しています。
普段NPBばかり見ている我々ですけれども、そのNPBに有力選手を送り込んでくれていた社会人野球が先細ってしまえば、困るのはNPBであり、そしてファンである我々でもあります。
産まれたての雛のようにただ口を開けて、有力選手が供給されるのを黙って待っているようではならないのです。
ですから、先細りをなんとか食い止めようと、あえて苦しい道を歩んでいる独立リーグの人々に、我々はもっと敬意を払わなければなりませんし、そういった現状を憂いて、身体一つで飛び込んできた岩村明憲さんのような人間を高く評価するべきだと、僕は考えたわけです。
この先岩村明憲さんのようなファイターが現れるかどうかわかりませんが、是非とも現れて欲しいですし、そうなるためには、こういった形で野球界に貢献した人物を正当に評価するようでなければならない筈です。
■
岩村さんは高卒でNPBのヤクルトに入って、そこからMLBでもプレーされて、日本に戻ってきてからは本来の能力を発揮できたとは言い難かったですけれども、それでも独立リーグに入って、それこそてっぺんから下の方まで、全て自分の体で思い知ってこられました。
これにて現役を退かれるわけではありますが、この貴重な経験と能力を、今後も野球界の発展に役立てて下さいますことを、お願いしたいと思います。
およそ20年の現役生活、お疲れ様でした。
以上