ベイスターズを二軍中心に見守るブログ 本店

毎年20~30試合ほどベイスターズ二軍の試合に足を運ぶ我慢強い男のブログ。野球関連の問題提起や将来へ向けた改革提案等も

中村紀洋は誤解されている

 中村ノリ選手といえば、「球界随一の問題児」のイメージがいまでも色濃く持たれていると思われます。実際、今年のファーム落ちした理由も監督との相性の不一致みたいなものでしたから、それも悪いイメージを補強するトピックになってしまいました。

 僕自身もノリ選手が入団する2011年までは悪いイメージを持ち続けていました。僕は日頃からマスコミ報道に不信感を持っていて、様々な報道に疑いの目を持ち続けてきたわけですが、そんな僕ですらマスコミの報道をほとんど真に受けてノリ選手に悪いイメージを抱いていました。

 近鉄時代にFA宣言して阪神近鉄を振り回しに振り回した一件などは、「悪いイメージ」だけでは済まされないものがありましたけれども、あれから10年近く経っても尚、悪いイメージを持ち続けていました。

 それが2011年のシーズン途中にベイスターズに入団を果たし、ファームの試合でノリ選手の姿を見るようになってから、ノリ選手に対するイメージが180度ガラリと変わってしまいました。

 この写真が2011年に入団し、ベイスターズのユニフォームに袖を通してのイースタン初出場を果たした試合後の、ファンからのサインの求めに応じるノリ選手の写真です。

 試合では初打席にあっさりとヒットを放ちました。前年秋から数えること半年以上も生きた球を打ってこなかったのですから、そのブランクは相当なものだと思いますが、まるでブランクなど無かったかのように、一二塁間をライナーで抜けるクリーンヒットを華麗にかっ飛ばしたのです。それを見て、さすがだなぁと感心したものでした。

 ただ、僕がノリ選手に対するイメージをガラリと変えたのは、むしろ試合後の様子を見たからでした。僕は普段は試合が終わるとそそくさと家路を急ぐのですが、その日は一緒に見ていた友達がノリ選手にサインをしてもらいたいと言うので出待ちに付き合ったのです。そこで颯爽と現れたノリさんは、サインを求める十数名のファンの全てに、一人ひとり丁寧にサインをしてから球場を離れたわけですが、その丁寧な対応に、ノリ選手の本質を垣間見た気がしたのです。

 これまでもたまには出待ちに付き合って球場を後にする選手を見てきましたが、中堅以上の選手であそこまで丁寧に対応できる人はなかなかおりません。マスコミが伝えるようなガサツで傲慢なイメージは、そこで早くも吹き飛ばされました。

 果たして、ノリ選手のファンに対する丁寧な対応はその後も変わりませんでした。入団直後はNPB復帰を叶えられた喜びでファン対応が丁寧になる事もあるでしょうが、それを数年経った今でも継続できるとは、並大抵ではありません。そのおかげもあってだとは思いますが、ファームの試合でノリ選手に打順が回った時の球場内の大歓声は相当なものがあります。球場全体から「待ってました!」の雰囲気が満ち溢れるといっても大袈裟ではありません。

 ノリ選手ほどのネームバリューがあればそれだけでファームの観客が大喜びするというのもありますが、同じくらいネームバリューがあったであろう去年までのラミレス選手でさえここまでの大歓声で迎えられる事はありませんでしたから、ノリ選手はそれだけ横須賀のファンから愛されているというのが伝わってくるのです。

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 マスコミによって悪いイメージが広められてしまうようなケースは、他球団にも多々見受けられます。

 最近では中日ドラゴンズの落合GMの監督時代が酷いものでした。とにかく些細な事をあげつらって、中日の客入りの悪さは全て落合監督のせいであると繰り返し非難されていました。無愛想でファンサービスに非協力的であると言われていました。

 ですが、実際に落合監督のインタビュー映像などを見ていると、不勉強な記者がテンプレート通りの「流れは」「気持ちは」といった質問ばかり繰り返して監督をウンザリさせているシーンが非常に多く目につくのです。不勉強でプロ意識の低い記者に対して辛辣なのは、むしろそれだけ高い意識を持ってマスコミ対応にあたっているからなのです。例えば元ベイスターズ盛田幸妃さんは解説者になって初仕事のラジオ中継を終えた後、いきなり落合さんから電話がかかってきて「いまの解説はなんだ!」と叱られたのだそうです。要は落合監督は普段から非常に事細かに対応しているのに、記者は自らの不勉強さを棚に上げて、そのやりとりを「非協力的である」と書き立てるのです。

 そういう事の繰り返しで落合監督のイメージが徐々に徐々に悪化していったわけですが、しかし本当に落合監督を見ていれば、どれくらい昔からファンの獲得に努力してきたかがわかるはずです。例えば、落合監督は現役時代からシーズンオフになると必ずと言っていいほどテレビのバラエティ番組に頻出してメディア露出に努めてきました。とんねるずの番組に出て「モジモジくん」をやっていた事など、覚えているオールドファンも多いと思われます。

 最近は歌舞伎役者の市川海老蔵さんや片岡愛之助さんがテレビによくお出になられますが、それは歌舞伎に興味を持ってくれる人を少しでも増やしたいからだそうです。落合監督は昔からそれを率先垂範してきた第一人者でもあるわけで、その人を「ファンサービスに非協力的」などと評するのは、記者の不勉強にも程があります。

 落合GMとは別の意味で実際とは異なるイメージを広められた例としては元広島の前田智徳さんが挙げられます。前田さんといえば在京マスコミは「孤高の打撃職人」といったイメージや前提条件で報じることが殆どだったわけですが、実際の前田さんは球界でも珍しいくらいの、非常によく喋る人です。

 今年のオールスター中継で解説するのを見ていましたが、そのままバラエティ番組に進出してしまうのでは?とある意味心配になるくらい、とても軽妙なトークを繰り広げていたものでした。在京マスコミがこれまでまつりあげてきたイメージがいかに実態に基づかないものであるか、ハッキリ見て取れました。

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 落合さんや前田さんの話で本題から激しく脱線してしまいましたが、要するにノリ選手はマスコミによって形作られた、ある意味虚構のような存在でもありました。しかしそれは違うのだと、僕はそう言いたいのです。

 率直に言って、ノリ選手が現役選手を続けられるのもそう長くは無いかもしれません。今年限りで戦力外通告を受ける可能性もかなり高いのではないかと思います。そして、再びノリ選手を拾い上げる他球団があるとは、それもなかなか難しいと感じています。

 ですが、ノリ選手という幅広い方面で価値を持つ選手の再評価が必要だと、それを強く実感しています。

 例えばコーチとしてはどうでしょうか。ノリ選手は高卒からの叩き上げでスターダムにのし上がった努力の人ですし、故障や移籍で何度も挫折した経験があります。それだけに言葉の重みは並のコーチとは比較になりませんし、実際ノリ選手の声がけやコーチングでキッカケを掴んだ選手も少なくありません。ですから、もしも今季限りで戦力外等ということがあったとしても、最低でもコーチや二軍監督として球団に留めておく事が必要です。石井琢朗さんや佐伯貴弘さんや谷繁元信さんといった優秀なOBを他球団で活躍させるような愚を繰り返してはなりません。

 そもそも選手として、もう本当に使い道は無いのかの再考も必要です。中畑監督の就任以来、ノリ選手だけでなく他のベテラン選手との意志の疎通が極めて拙いのが明らかです。ベテランの底力をうまく引き出すためには何よりも対話と尊重が不可欠です。それは中日が和田選手やガッツ選手や岩瀬選手を長く活躍させている所からも学べるのではないでしょうか。

 ノリ選手と中畑監督との間には采配を巡る騒動が繰り返されてきました。基本的に采配批判はタブーだというのは球歴の長いノリ選手も重々わかっての上だと思いますが、それを踏まえて一言申し上げるからには、膝を割って話し合う必要があります。ノリ選手の仰木監督や野村監督や梨田監督といった名将の下でやってきた経験に無駄なものは何もないはずです。それをろくに話も聞かずに切って捨てるとは、いかにも傲慢というものです。

 中村紀洋という稀代の傑物を前にして、ベイスターズ球団は試されているのではないでしょうか。

 本当に強いチーム作りをしていく為にも、上げ底ではない本当のファンを獲得していく為にも、中村ノリ選手の本質を見極め、そして彼をどう処遇していくべきかを見つめなおす必要があるのではないでしょうか。

 ほんのごく数年の観客動員や僅かな順位変動に一喜一憂するのではない、腰の据わった対応を求めていきたいと考えています。

以上